患者対照研究におけるバイアス

 バイアス bias とは、対象者の選択に始まり、データ収集、分析、解釈、発 表などの際に起こる可能性がある、本当の結果を誤らせる一連の傾向で、「偏り 」ともいいます。
 バイアスは標本サイズを十分大きくしたり、 無作為化 することで減らすこともできますが、研究デザインを設定する時に十分慎重 に行わないと常に起こる可能性があります。特に、 無作為化対照試験 に比べて患者対照試験ではバイアスの問題が生じやすいので注意する必要が あります。バイアスには種々のものがありますが、患者対照試験では特に次のも のが問題となります。

選択バイアス

 選択バイアス selection bias は何らかの方法で症例(患者)や対照を系統 的に選択する際に起こりうるものをいいます。例えば、大学病院に入院している 患者を症例群とする場合、その疾患に罹患しているけれども何らかの理由で大学 病院に来院しない患者とは重症度や年齢、その他の疾患の背景などが異なってく ることがあります。もし、このような症例群をその疾患の代表として扱うと、実 際の患者母集団とは異なる結果が得られるようなことになるやもしれません。ま た、希望者を募るようなやり方で症例を選択する場合も、本人の意志が働き、偏 った集団となる可能性があります。
 対照群についても同様に選択バイアスが問題となることがあります。理想的 には対照群は症例群と同じ母集団より選ぶべきです。しかし、通常は症例群を入 院患者より選ぶので、まったく同じ母集団より対照群を選ぶことは困難です。そ こで、大抵は症例群と年齢構成や性別、生活背景などの諸条件がなるべく一致す るような正常人を対照群とします。このように症例群と条件が一致するように対 照群を設定することをマッチング matching といいます。マッチングをしても対 照群は症例群と異なる条件の母集団であることを常に念頭に置かなければなりま せん。

測定バイアス

 測定バイアス measurement bias は、研究者によるデータの収集方法や被験 者の知識などに起因するもので、情報バイアス information bias の一種です。 もし、研究者が個々の被験者の疾病状況について知っていて、診断や曝露状況の 判定に先入観が入る余地があると、評価が偏ったものとなる可能性があります。 また、被験者が自分の疾病状況や曝露状況についてよく知っていて、研究者や自 分に都合がよいように答えるような場合にもバイアスが生じてきます。逆に、被 験者の記憶が不正確で回答に誤りがある場合もあります。これを想起バイアス recall bias とよびます。
 これら測定バイアスを防ぐ最も有効な方法は測定や評価を 盲検化 することです。

   

UPDATE:10/May/10'

© S. HARANO, MD,PhD,MPH