リスク人年

 コホート研究のようにある期間観察した結果より曝露の影響を調べる場合、 その事象(例えば死亡、発症など)が起こった人数とともに観察された期間が重 要な意味を持ってきます。もし観察期間を長くするならば、その事象が起こる人 数が増加する可能性があるからです。そこで、観察した人数とその観察期間をか けたものを基本としてその影響を考えていきます。この観察した人数とその観察 期間をかけたものを観察人時 person-time といいます。多くの場合、期間は年 単位で観察されますので、観察人年 person-year を用います。例えば、5年間 の観察期間に20人観察したとすると、観察人年は100人年となります。いま、曝 露による危険率 hazard rate として罹患率 incidence を考えるときに、100人 年で10人が新たにその疾病に罹患したとします。罹患率はこの発生数を人年で割 った値、つまり0.1となります。これはちょうど1年間あたり0.1人の新たな罹患 があったと解釈することができます。
 この人年法の考え方は、実際に事象が発生した数を用いて危険率を見る以外 に、治療などで害に曝される危険性を表す場合にも用いられます。例えば、ある 薬剤を服用している人の副作用を調べる場合、100人からなるAグループではそ の薬剤を平均5年使用しており、20人からなるBグループでは平均10年使用して いたとすると、その薬剤の影響、言い換えれば副作用を起こす可能性のある曝露 程度は100×5+20×10=700人年であるといえます。これをリスク人年 person-years at risk といいます。これは、その薬剤の使用期間が同一とした場合に、その 間に薬剤のリスクが存在していると仮定できる人数を意味しています。(観察人 年は一定の研究期間内でひとりひとりを観察した年の総和であるのに対し、リス ク人年は研究時点で得られたグループ毎の平均曝露年の総和であることに注意) しかし、例えば、この700人年は1年間700人にリスクがあるのか、7年間100人 にリスクがあるのかで意味が異なってきます。この仮定があまり現実的でないほ どかけ離れている(例えば、薬剤使用年数のばらつきが大きい)ような時には、 これらの集団における事象(例えば副作用)の発生数を(罹患率のように)リス ク人年で割ったもので結果を解釈するのが難しくなります。ただし、観察期間が 短ければ短いほど、このリスクがあるとされる人数の仮定は理にかなったものと なります。

   

UPDATE:10/May/10'

© S. HARANO, MD,PhD,MPH