κ統計量

 κ統計量 kappa statistic(カッパ値ともいう)とはカテゴリーなどの名義尺度での一致性の指標で、例えばX線検査所見や理学的所見などのような主観が入る判定が複数の観察者の間(これを判定者間一致 inter-rater agreement という)で、または同一観察者では複数回の判定間(これを判定者内一致 intra-rater agreement という)で、一致するかを知るものです。

κ値の計算方法

 具体的な例で説明してみましょう。今、2名の医師が外来に通院する炎症性胸部疾患の疑いのある患者100名の胸部X線所見の診断をお互いに比較しようとしていると仮定してみましょう。この場合、この医師たちが「判定者」であり、患者を「肺炎」、「結核」、「肺癌」に分類するとします。その結果、次の表のようになったとします。

2人目の医師
1人目の医師 肺炎 結核 肺癌
肺炎 61 3 1 65
結核 10 7 3 20
肺癌 4 5 6 15
75 15 10 100

 この表を見ると、1人目の医師は胸部X線で65%が肺炎、20%は結核、15%は肺癌の所見を認めると考えています。一方、2人目の医師は75%が肺炎、15%は結核、10%が肺癌と判定しています。しかしこれでは全体としての割合はわかっても患者個人個人の所見についての意見の一致がどのくらいあったかはわかりません。そこでまず、表の左上から右下まで(もちろん総計は除いて)対角線上のセルを見てみます。これらのセルは医師たちの意見が完全に一致している患者数が入っています。この例では、両方の医師とも61名の患者が肺炎であるいう点で意見が一致しており、他も同様に見ていくと、すべての患者のうち(61+7+6)/100 =74%で両方の医師の診断が一致しているといえます。
 この観察された一致の割合 Po で問題となるのは、2名の医師がでたらめに患者を分類していた時に起こり得る偶然の一致を考慮に入れていないことです。そこで偶然の一致を推定してみます。1人目の医師が肺炎と診断する確率は65/100 =0.65であり、2人目の医師の場合は0.75です。単に偶然のみによって診断が一致する確率は、0.65×0.75=0.4875 となります。これをその他のカテゴリーについても算定し合計すれば、偶然に診断が一致すると期待される全体の割合 Pe を推定することができます。Pe=(0.65×0.75)+(0.15×0.2)+(0.10×0.15) =0.5325 、つまり、53%の確率で偶然に一致すると期待されます。κ値は偶然によらずに一致する割合と定義されます。つまり、偶然を超越した一致の確率といえ、次の式で算出されます。
 κ=(Po−Pe)/(1−Pe)
 この例では、κ=(Po−Pe)/(1−Pe)=(0.74−0.5325)/(1−0.5325)=0.44 となります。このκ値の式は判定者間一致だけでなく、判定者内一致にも使用することができます。一般的に、κ値が0.41−0.60の間ならば中等度の一致、0.61 −0.80のあいだならばかなりの一致を示し、0.80を超える値をとる場合はほぼ完璧に一致していると考えられます。
 さらに、κ値の信頼区間を知るためには標準誤差 standard error(se) が必要となりますが、これは以下の近似式で与えられます。
 se(kappa)=√Po(1-Po)/N(1-Pe)^2・・・^2は2乗の意味
ただし、この公式は近似にすぎないことに注意が必要です。

κの制限

   

UPDATE:10/May/10'

© S. HARANO, MD,PhD,MPH