
検診プログラムの構成
検診、特に一次検診は健康集団の中から無症状あるいは無自覚の有病者を選
び出すための一連の検査で、集団の中からふるい分けるという意味でスクリーニ
ング screening と呼ばれています。スクリーニングに用いられる検査には次の
条件が必要とされます。
- 信頼性 reliability:検査方法や測定者による変動が少なく、再現性があるこ
と。
- 簡便性 convenience:時間や費用がかからず、受診者に苦痛や危害を加えない
など、簡単で効率的な方法であること。
よりよい検診プログラムにはその集団や対象疾患に対して適切なスクリーニ
ング検査が絶対必要であることは疑いないことですが、以上の条件を満たしてい
るだけでは十分ではありません。もっとも大事な大原則は「早期発見が早期治療
につながるという根拠がなくてはならない」ということです。つまり、早期発見
ができるスクリーニング検査を実施しても早期治療ができない状態では意味がな
いということです。もし、早期治療につながるという根拠がないときには、スク
リーニング検査を完成されたものとして導入するのではなく、必要な根拠を得る
ための試験的検査 pilot programme に留めておかなくてはなりません。
適切な検査法と早期診断が有益であるという根拠があれば、次に検診プログ
ラムをどのように構成するかが問題となります。プログラムを構成するうえでは
以下のことを留意しなくてはなりません。
- スクリーニングの対象集団の明確化:どのような人をスクリーニングの受診対
象者とし、だれを対象としないかを明確にします。
- 目標集団への受診勧誘方法:すべての目標集団を網羅するように、受診を勧め
参加させなければなりません。そのためにどのように勧誘するかも検討すべきで
す。また、再受診や事後の精密検査を受けさせる方法も必要です。
- 有病者の定義と境界領域の方針の統一:スクリーニングの段階で有所見者をす
べて疾病に結びつけることは困難です。しかし、測定者や検診の時期によってそ
の都度判定基準が異なるようでは混乱してきます。どのような結果を有病者とし
、どのような結果を境界領域にするか、その定義や方針が統一され、関係者に徹
底されていなければなりません。このことは検査の精度管理とも関係するところ
です。
- 検査や有病者の治療を行う施設の確保:新しい検診プログラムを行う際には、
それまで以上の診断検査と治療を行い得る資源が必要となってきます。この資源
は、費用のみならず、建物や設備、器材、訓練のいきとどいた人材などにも考慮
しなくてはなりません。
- プログラムの効果監視体制:その検診プログラムがどのように実施され、死亡
率などの結果が変化したかの情報を集め、さらにプログラムをよりよく改善して
いくような事後評価の体制が整えられていなくてはなりません。
- プログラムの費用効果分析:同様な利益が得られるような他の方法と比較して
、費用と便益の点から経済的評価をする必要があります。比較することで、スク
リーニング検査を行うよりも一次予防の実施や治療施設の改善といったことが資
源をもっと有効に利用することになる場合もあります。

UPDATE:10/May/10'
© S. HARANO, MD,PhD,MPH