スクリーニング検査のプログラムはその構成や効果指標について検討して集 団の健康状態改善に有益であると判断されたうえで導入されることになります。 しかし、現実的にはこれで完全とはいえません。そのプログラムについてさらに 事後評価をすることでよりよいものとしなくてはならないからです。これには、 プログラムがどのように実施されるかという過程の評価と、集団の健康にどのよ うな影響を及ぼしたかという転帰の評価が必要です。
スクリーニング検査で早期に発見される時点と通常の臨床の場で発見される 時点の時間差をリードタイムといいます。もし、全く同時期に発病し、同じ生存 期間の後に死亡した人がいた場合、片方がスクリーニング検査により早期に発見 されたのに対し、もう一方がそれに遅れて外来で発見されたとしたら、もちろん 正確な発病時期はたいがい不明ですので、一見スクリーニング検査を受けた者の ほうが生存期間が長かったように感じられます。これはスクリーニング検査の効 果で生存が延びたのではなく、単に発見が早かっただけです。これとは別に、も し外来発見者が死亡してもスクリーニング検査受診者はその後も生存し続けてい たら、これは早期発見効果によるもので、スクリーニングの効果と考えてよく、 バイアスと区別しなくてはなりません。
対象とした疾病の進行はすべて同程度とは限りません。特にスクリーニング 検査で発見される疾病は外来で発見されるものに比べて、比較的良性で進行がゆ るやかであることが多い傾向にあります。つまり、実際の発病より受診までの期 間(これを「前臨床段階」といいます)が比較的長く、予後の良い者が発見され やすいということです。したがって、単純に予後を比較するだけでは結果の解釈 を誤る危険があり、対象者の特性を考慮しなくてはなりません。
実際に観察される集団を選択する基準が異なるため、一見予後が良好である ような結果となってしまうことがあります。これは、スクリーニング検査の受診 者は一般的により若かったり、疾患についての知識があったり、健康意識が高い ために、未受診者より生存率が良くなることによります。つまり、選択の段階で 受診者の意志が働いて、未受診者とはことなった集団を形成する可能性があるこ とを考慮しなくてはなりません。
UPDATE:10/May/10'
© S. HARANO, MD,PhD,MPH