尤度比

 敏感度や特異度などの検査の効果指標は陽性か陰性か、あるかないかという 2分割にできる結果の解釈に用いられるものです。しかし、多くの検査結果は複 数よりなるスコアや計測値の形で得られ、ある カットオフポイント を境として陽性か陰性かを定義しているにすぎません。このために、しばし ば何らかの情報を捨てざるを得ないことになってきます。
 実際の場では、ある検査で得られる新しい情報が、どれだけその個人が疾病 にかかっているであろうと判断できるかが問題となってきます。これは、単に敏 感度や特異度といった検査それ自体の持つ特性ばかりでなく、どれだけその個人 が疾病にかかっている可能性があるか、そしてそれをどれだけ正しく判定できる かということになります。そこで、その個人が検査前にすでに疾患にかかってい る確率、これを事前確率(あるいは検査前確率)prior probability といいます が、それに検査によりどれだけ正しく疾病と判断できたかという確率、これを事 後確率(あるいは検査後確率)psterior probability といいますが、が係わっ てきます。すでに「 スクリーニング検査の効果指標 」の項で述べたように、事前確率は有病率、事後確率は陽性反応適中率で示 されますが、有病率や適中率は集団を対象とした場合、事前確率や事後確率は個 人に主眼を置いた場合を表しています。それではこれら事前確率や事後確率から 検査結果をどのように判断したらよいのでしょうか。
 この判断の基準となる指標が尤度比 likelihood ratio なのです。検査が十 分妥当なものである時に、それぞれの起こり得る結果について尤度比を計算する ことができます。尤度比は疾病にかかっている人がその検査結果となる確立と正 常な人がその検査結果となる確立の比と定義されます。つまり、
尤度比=有病者がその検査結果となる確立/非有病者がその検査結果となる確 立
 検査結果が陽性か陰性かといった2分割したものとなる場合には、尤度比は 有病者が異常とされる確立(敏感度)と正常者が異常とされる確率(1−特異度 )の比となります。つまり、
尤度比=敏感度/(1−特異度)
 この尤度比を用いて事後確率を求めるには検査後オッズ posterior odds と 検査前オッズ prior odds との関係を示す次の公式が用いられます。なお、 オッズ とはある事象が起こる確率と起こらない事象の比を表しています。
検査後オッズ=事後確率/(1−事後確率)
      =検査前オッズ×尤度比
      ={事前確率/(1−事前確率)}×{敏感度/(1−特異度)}
 この公式が有利な点は、分割表による計算によらなくとも、事前確率と尤度 比がわかれば事後確率が求められるということです。ただし、この関係が示すよ うに、事後確率は検査前オッズと尤度比の双方により左右される点に注意しなく てはなりません。つまり、同じ対象者でも尤度比が異なれば(つまり、カットオ フポイントを変えれば)事後確率は異なり、尤度比が同じでも事前確率が異なれ ば事後確率が異なってくるということになります。(計算しなくてもこれらを求 めるために、Faganによるノモグラムがあります。)一般に、検査結果が複数の カテゴリーに分類される場合に尤度比は役に立ち、10以上なら確定診断に、0.1 以下ならば除外診断にその結果が有効であることを示し、5以下または0.5以上な らばあまり有効でないと言えますが、上記の理由よりあくまで目安と考えなくて はなりません。

   

UPDATE:10/May/10'

© S. HARANO, MD,PhD,MPH