FAQ

Sorry. It's not 'structured' questions, but 'randomized' questions.


Q.EBMと臨床疫学は同じものですか。

A.結論から言いますと、まったく違うとも言えませんし、まったく同じとは言えません。臨床疫学が研究方法や結果に主体があるとすると、EBMはその活用法に主体を置くものと言え、目指すところや素材は同じです。これは例えるならば、犯罪の裁判の場面を考えるとよいでしょう。捜査官が被告人の犯罪についての証拠を探して用意し、あるいは弁護人が無罪の証拠を提出します。それらの証拠を検討し、さらに証人や追加の証拠を求め、最終的に法に基づいて判断するのは裁判官です。臨床疫学が証拠を探求する捜査官や弁護人とすると、その提示する証拠を参考に判断をくだす裁判官あるいは裁判そのものがEBMと言えます。また、判決の基準となる法律はcriteriaやガイドラインとも考えられます。もちろん裁判官も証拠についての知見に通じていなくてはなりませんし、どの過程が欠けても判決というEBMの目的は達成できません。つまり、臨床疫学とEBMは表裏一体のものとも言えるのです。

Q.EBMは文献を読解する手段と考えてよいでしょうか。

A.はっきり言って違います。論文を読んで批判的に検証評価するのはその一部にすぎません。大切なことは、問題を抽出し、診療を行い、その結果を確認するいずれの過程にもかかわることであるということです。外部の根拠は文献だけとはかぎりません。他の専門家の意見や臨床所見でも、医療にかかわるものすべてが根拠となるのです。

Q.EBMでは評価を表す単語がassessment, evaluation, appraisalといろいろ出てきますが、これらは異なるものでしょうか。

A.日本語だと評価を表す言葉はあまりありません。これは日本人が評価されるのをあまり好まないという国民性によるのかもしれません。さて、これらの単語はしばしば用いられ日本語ではいずれも「評価」と訳されてしまいがちですが、ある程度ニュアンスの違いで区別することができます。assessmentは環境アセスメントのようにこれから行う対象の状況や影響の評価に用いられるもので、われわれは「事前評価」と訳すことを提案しています。これに対し、evaluationは結果や成績の評価、総合的な評価に用いられ「事後評価」と訳すこととしています。appraisalは鑑定や見積もり、値踏みといった価値の査定評価を意味するものです。critical appraisalに対してはやや意訳的に「批判的検証評価」というのを提案しています。

Q.最近の科学の進歩により、ぞくぞくと分子生物学をはじめとする新しい知見が提示されてきています。EBMではこれらも科学的根拠として重要視していかなくてはならないのではないでしょうか。

A.かならずしもそうとは言い切れません。なぜなら、EBMは臨床疫学の発想から生まれたものだからです。科学的実験に基づいた新発見を取り入れてまとめただけならば、従来の総説などと大差ありません。このような実験研究の新知見は、生物科学的には重要な発見かもしれませんが、はたしてすぐに人間、とりわけ臨床の場に適応してよいものでしょうか。確かにこれらの知見は新しい理論を提示するものになるかもしれません。しかし、理論は所詮理屈にすぎないのです。これが臨床にもうまく適応できると証明されて初めてEBMのevidenceとなるのです。EBMの科学的根拠の「科学的」とは、科学的に利用できることが証明されることで、科学的な分野の発見をすることではないのです。そのためには、臨床研究、とりわけ臨床疫学的研究が重要視されなくてはなりません。いくら画期的な新知見が得られたとしても臨床応用の有用性が証明されないかぎりEBMの根拠としては弱いと考えられます。つまり、EBMとは画期的な実験研究による新知見を多く取り入れるということではなく、臨床疫学的に確かに有用だと証明された証拠を基礎とするということなのです。もちろん、臨 床疫学的研究もその研究デザインや結果の分析・解釈が不適切ならば根拠としては弱くなります。

Q.EBMのEvidenceにはどのようなものがありますか。

A.端的に言って、自分の経験や勘に頼らないがすべてevidenceとなります。よく「外的な根拠」と書かれていますが、これは自分が個人的に所有する知識や経験、勘ではなく、他人の意見(口答でも文献でも)を参考にするということです。最も簡単で身近なevidenceは指導医や先輩、同僚のアドバイスです。しかし、これには思い違いや思いこみ、憶測などの不確かな要素が入ってきます。教科書もevidenceになり得ますが、出版された時点で古い知識となっていたり、独断や推測が入っている場合もあり注意が必要です。最もよいのは文献などによる最新の情報です。ここで言う文献とは多くの人に読まれているようなimpact factorが高い学術誌に掲載されたもののみならず、学内紀要や報告書もなど含まれます。このようなものも含めて、できる限り多くの文献が考慮される必要があります。また、文献の種類にもいろいろあり、生理機構解明や病態追求などメカニズムを知るための実験研究や、疾病などの要因や環境、条件などを知るための疫学研究、それらの知識を基に治療や診断の有用性や効果など知るための臨床疫学研究が挙げられますが、EBMは臨床の現場での応用を検討するものであるために、より実用的な臨床疫学研究が最も重要視されます。臨床疫学研究の中では、疾病の条件を列記したようなcase series studyから疾病と正常を後ろ向き・横断的に検討する症例対照研究、実験的な介入を加える無作為化対照試験などがありますが、後者ほどevidenceとしての価値は高くなります。さらに、meta-analysisなどによりいくつかの症例対照研究や無作為化対照試験を統合する系統的研究はevidenceとして最も確かなものとして扱われます。

Q.EBMは何を目的にしているものですか。

A.EBMは簡単には、医療の評価方法と言えます。評価といっても、新しい治療法や診断法といったものを評価するというものではなく(この場合に用いられるのが臨床疫学です)、臨床実地の場面で既存の知見を用いて、意志決定のための事前評価を行うということです。つまり、自分の受け持ち患者にその治療や診断などの医療行為を行ってもよいものかどうかを評価するものです。その意味で、EBMをEvidence-Based Clinical Practiceとも言っています(厳密には多少の相違はありますが)。これはちょうど、何かの施設を建設する際に環境への影響を事前に調べる環境アセスメントと似ているといってもよいでしょう。また、EBMには自分が実際に行った医療行為に対して事後評価をすることも含まれるでしょう。これらの方法のルールと基準をどうするかがEBMのポイントだと考えられます。

Q.最近、がん検診が無効であるというevidenceが示され、中止される傾向にあると聞きましたが、そのevidenceは確かでしょうか。

A.まず、お断りするのは、がん検診は完全に否定されたというのではなく、一般財源化(つまり、中央官庁の補助金によらず、一般会計予算の範囲で決定)されたことにより、市町村の裁量で実施を決定するように変更された、ということです。そもそも、検診(つまり、スクリーニングプログラム)の効果の決定にはいろいろな要素が関わるのでそう簡単なことではありません(われわれの「臨床疫学入門講座」の該当項目を参照してください)。残念ながら参考とされた研究結果を詳しく検討した訳ではありませんが、スクリーニングプログラムの効果を検討する際に、スクリーニング方法の選択(例えば肺がんでは単純胸部X線がヘリカルCTか)、検診機関の数や精度、事後措置としての治療技術の相違(例えば、20年前と現在では治療技術がさらに発達していたり、地域格差がある場合)、評価方法(死亡率か悪性度か、など)といった要素により結果に違いが生じます。また、有病率も重要な要素です。地域や時代、対象者の年齢によって有病率は当然異なり、ある検査の尤度比がわかっている場合、有病率を事前確率としてその事後確率を求めると、ある標的集団では無効でも別の集団 では有効となる場合もあります。また、より成績のよい、つまりは尤度比の適切な検査を採用すれば同じ有病率の集団でも事後確率が向上することもあります。つまり、提示されたevidenceには必ず結果の幅(例えば信頼区間のような)がありますので、ただ単にひとつの値、ひとつの推論のみで適否を決定するのではなく、自分の市町村では有病率が高いので意義があると判定したり、ある年代では有病率が高いので対象者を限定するとか、より尤度比の高い検査を採用するとか、自分の問題にどのように当てはめて考えるか(これもEBMの重要な過程です)が大事で、むしろこのように検討して必要性をアピールすることがevidenceを有効に活用することとなります。

Q.エビデンスのレベルは無作為化比較対照試験がコホート研究より高いとされていますが、交絡因子やバイアスなどが大きくて質に疑問があるような無作為化比較対照試験でも、よくデザインされたコホート研究よりいつもエビデンスの強さは上なのでしょうか。

A.いいえ。研究デザインによるエビデンスのレベルは、すべて質が十分高いことを前提として、研究デザインそのもののエビデンスの強さを示しています。したがって、その研究自体の質が悪ければ、研究デザインの形式にかかわらずエビデンスの強さとしては小さくなります。EBMの手順のうち、文献等を取り寄せた後にそれを批判的に検証評価(あるいは批判的吟味)critical appraisalするとは、まさに研究の質をそれぞれ評価することなのです。ですから、この段階を経ずしていかなる研究成果もエビデンスとして採用する訳にはいかないということになります。

Q.EBMの実際についてもっと知りたいのですが、どこに行けば習えますか。

A.現在、国内でも徐々にEBMを取り上げたセミナー等が増えてきています。以前よりEBMに取り組んで各種セミナーを主催しているところには、名古屋大学予防医学教室、自治医科大学地域医療学教室、京都大学総合診療部、日本疫学会などがあります。詳細はそれぞれにお問い合わせください。

質問はこちらへ・・・

to INDEX

UPDATE : 10/May/2010

© S. HARANO, MD,PhD,MPH