概要

 認知症は単なる「物忘れ」ではありません。その名が示すとおり、記憶を含む認知機能障害を伴う病気の総称です。認知症の原因となる主な疾患には、脳血管障害、アルツハイマー病などの変性疾患、正常圧水頭症、ビタミンなどの代謝・栄養障害、甲状腺機能低下などがあり、これらの原因により生活に支障をきたすような認知機能障害が表出してきた場合に認知症と診断されます。
 認知症は原因や病態により、おおまかに下記のように分類されています。
  • 血管性認知症
    • 脳梗塞などによる
  • 変性性認知症
    • アルツハイマー型認知症(ATD)
    • パーキンソン病(PD)
    • 前頭側頭型認知症(FTD)
    • ピック病
    • びまん性レビー小体病(DLB)
    • 正常圧水頭症(NPH)
    • その他
 日本では従来より血管性認知症が最も多いといわれていましたが、最近はアルツハイマー型認知症が増加しています。脳血管障害の場合、画像診断で微小病変が見つかっているような場合でも、これらが認知症状の原因になっているかどうかの判別は難しく、これまでは脳血管性認知症と診断されてきましたが、実際はむしろアルツハイマー病が認知症の原因となっている、所謂、「脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症」である場合が少なくないことがわかってきました。
 日本の高齢者(65歳以上)での有病率(今現在病気の方の割合)は、調査によってばらつきが大きいのですが、3.0〜8.8%といわれています。この値は2026年には10%に上昇するとの推計もあります。年間発症率(年間で新たに病気になる方の割合)は65歳以上で1〜2%でありますが、75歳を超えると急に高まり、65〜69歳では1%以下だったのが、80〜84歳では8%にも上昇します。
 発生の危険因子としては、年齢、家族歴、遺伝因子、動脈硬化の危険因子(高血圧、糖尿病、喫煙、高コレステロール血症など)が知られています。また、原因として、ウイルス説、中毒説(アルミニウム、水銀など)、なども唱えられていますが、確定的なものはまだありません。

関連疾患

 軽度認知障害

 正常老化過程で予想されるよりも認知機能が低下していますが、認知症とはいえない状態です。認知症の前段階にあたり、認知機能低下よりも記憶機能低下が主兆候となります。主観的・客観的に記憶障害を認めますが、一般的な認知機能・日常生活能力はほぼ保たれています。「認知症」の診断ができる程度に進行するまで、通常5〜10年、平均で6〜7年かかります。医療機関を受診した軽度認知障害では、年間10〜15%が認知症に移行するとされています。さらに、単に軽度の記憶障害のみの例より、他の認知障害(言語・注意・視空間)を合わせて持つ例の方が、認知症への進行リスクははるかに高いと報告されています。

 加齢関連認知低下

 記憶障害のみにとどまらず認知機能低下をも含む、「広義の軽度認知障害」の概念のひとつとして国際老年精神医学会が診断基準をまとめたものです。加齢関連認知低下とは、6ヶ月以上にわたる緩徐な認知機能の低下が本人や家族などから報告され、客観的にも認知評価に異常を認めますが、認知症には至っていない状態です。認知機能低下は、(a)記憶・学習、(b)注意・集中、(c)思考(例えば、問題解決能力)、(d)言語(例えば、理解、単語検索)、(e)視空間認知、のいずれかの機能が低下します。

症状

  症状は以下の中核症状と周辺症状に分けられますが、病型によっては他の神経症状が加わります。

 中核症状

 記憶障害と認知機能障害(失語・失認・失行・実行機能障害)からなります。神経細胞の脱落に伴う脱落症状であり、患者全員に見られます。病気の進行とともに徐々に増悪します。

 周辺症状

 幻覚・妄想、徘徊、異常な食行動、睡眠障害、抑うつ、不安・焦燥、暴言・暴力などです。神経細胞の脱落に伴った残存細胞の異常反応であり、一部の患者に見られます。病気の進行とともに増悪するわけではありません。家族などの介護者を悩ませ、医療機関受診の契機となるのは、この周辺症状である場合が多いです。

治療

 一般的に、認知症を来たしている原因により治療方法は異なります。近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、アルツハイマー型痴呆を中心として認知機能の改善、痴呆進行の緩徐化などの効果が期待されています。また、周辺症状に対しては、適宜、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん剤などの対症的な薬物療法が有効なこともあります。なお、日中の散歩などで昼夜リズムを整える、思い出の品や写真を手元に置き安心させる回想法やテレビ回想法などの薬物以外の手段も有効な場合があります。

当院での取り組み

 当院では、この分野で著明な効果を挙げている「コウノ・メソッド」を採用しています。コウノ・メソッドは、共和病院老年科部長河野和彦先生(現・名古屋フォレストクリニック院長)が開発された治療法で、周辺症状を陽性症状と陰性症状に分け、これらと中核症状のバランスから薬の種類と量を決める、「さじ加減」を重視した方法です。また、フェルラ酸とガーデアンゼリカを配合したフェルガードを積極的に使用し、譬えるならば、個人個人の状態に合わせた漢方的治療法といえます。平成21年現在でこの治療法を採用している医療機関は愛知や北海道で急増していますが、東京では当院を含め2施設(神経専門では当院のみ)です。
 さらに、アルツハイマー病には低用量ナルトレキソン療法キレーション、など、保険適用外でも有効と考えられる治療法を紹介実践しております。

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