はじめに

 Evidence-based medicine(以下EBM)はいろいろな外的根拠を駆使する考え方と技法が根本となりますが、そのほとんどが臨床疫学に基礎を置いているといっても過言ではありません。EBMを最初に提唱したカナダのマクマスター大学臨床疫学教授のサケット博士(現オックスフォード大学教授)はその後もEBMに用いる数々の臨床疫学的指標も開発しています。このようにEBMを理解するためには臨床疫学の知識が不可欠であり、臨床疫学が実用性の根拠を求めているかぎり臨床疫学なくしてEBMは成り立ちません。しかし、日本においては多くの医学部で臨床疫学を教える課程もなく、卒業後に医師として臨床疫学を研修する機会も少ないのが現状です。そこで、EBMを推進するためには初歩的な臨床疫学の知識を得る機会を設ける必要があると考えられました。
 本講座は以上の主旨に基づいて編集された初学者のための入門講座であります。入門でありますのでごく基本的なことをごく簡単に触れるに留まっています。また、実際に臨床疫学の研究を始めたいという人を対象としてはいませんので、即座に研究に役立つものではありません。あくまでも、EBMを理解するうえで、とりあえず知っておいたほうがよい知識の解説なのであることをご了承願います。
 この講座の構成は「因果関係」「診断の適否」「治療の効果」となっています。これは臨床疫学で扱うテーマから大きく3つに分類したものですが、もちろん、それぞれオーバーラップする項目もあります。中には他の章に移したほうがよいと思われるものもあるやもしれません。しかし、それは前後の該当する項目を参照することで了承いただきたいと思います。また、不足している項目については適時追加しますが、基本的には統計学の教科書にも記載されているような一般事項は省略させていただきます。
 この講座を見て臨床疫学に興味をもたれる方が増え、日本においてますますEBMが普及することを願います。           

日本大学医学部公衆衛生学兼任講師
かみや町駅前クリニック 院長
医学博士・公衆衛生学修士   原野 悟 

   

UPDATE:10/May/10'

© S. HARANO, MD,PhD,MPH